現在、主に朗読会やナレーターとして活躍している田中智之さん。声の仕事を始める前は、ゲームクリエイターとして勤務していたそう。在籍していた専門学校のゲーム学科には学生が約300名ほどいましたが、その中からゲーム業界に就職できたのはわずか6名。当時相当な狭き門であったゲームクリエイターへの道をつかみ取りました。そんな夢を叶えたはずの田中さんがなぜ、ゲームクリエイターからナレーターの道を歩むことになったのでしょうか。
ナレーターになるきっかけは、先輩からのひと言
子どものころからのゲーム好きが高じて、作り手になった田中さん。
田中さんがゲームクリエイターとして活躍していた時代は、いわゆる“ブラック企業"なんて言う言葉はまだなく、長時間労働や休みが取れないことは当たり前だったといいます。
元々椎間板ヘルニアを持病としていた田中さんでしたが、長時間のデスクワークの末、ついには緊急手術をするまでに悪化してしまいます。
そのため夢だったゲームクリエイターの道を諦めざるを得なくなり、「次はどうしようかな…」と思っていたところ、先輩から
「お前いい声してるから、声優になれば?」
と言われました。
夢だったゲームクリエイターを諦めざるを得なかった状況でとても落ち込んでいた田中さんは、「やってみるか…」と思い大阪の声優専門学校へ入学します。このことについて田中さんは、「今思うと冷静な判断ができなくなっていたのかもしれない(笑)」と振り返ります。
大阪で2年の専門学校生活を経たのち、もっと活躍したいという気持ちから東京の養成所へ行くことを決めました。
漠然と“声の仕事”ができればと考えていたとき、養成所で「きみの声やしゃべり方はナレーターに向いているかも」とアドバイスをもらったことで、ナレーターになることを意識し始めたといいます。
今ではナレーターという職業が自分に向いていると感じています。セリフの仕事では感性を強く要求されます。ナレーションは感性よりもテクニックが求められる世界だと田中さんは考えています。文章の読み方や正しい日本語など、きちんと勉強すれば結果に反映されやすく、ダメ出しされたとしても腑に落ちやすい。そのため田中さんは、自分にはナレーションが性に合っていると感じているのです。
「心臓が止まって死ぬんじゃないかと思った」 初めてのナレーション
「ナレーターとして難しかったことはありますか?」
この質問に田中さんは、
「初仕事のことは忘れもしない」
と答えました。
初仕事は番組内でのナレーションの仕事でした。1人ブースに入りナレーションをしていると、耳につけているヘッドフォンから聞こえてくる自分の声が気になってしまい集中できなくなってしまいます。
息遣いやリップノイズに気を取られてしまい、「リップノイズを鳴らしちゃいけない…噛んじゃいけない…」とマイナスのことばかり考えてしまい、グダグダになってしまったそうです。 リップノイズとは、唇を開けたときの「パッ」という音や、唇を動かしたときに出るペチャペチャという水っぽい音のことです。
ブースでは1人きりなので、気持ちがいっぱいいっぱいになってしまったら持ち直すのが大変だと田中さんは語ります。それはブースに入ってからのみに限らず、その仕事がうまく運ぶかどうかは仕事に入るときのドアを開け、「おはようございます!」と挨拶をするところから始まっています。
そのときの自身の状況…メンタルやのどの調子、スタッフの方々への態度、コミュニケーションの取り方でうまく立ち回らないと、現場の空気が悪くなってしまいます。そんな中での収録は「最悪」だと田中さんは言います。
例えば田中さんは緊張しているだけだったとしても、スタッフの方々に
「田中さん機嫌悪いのかな」
「田中さんって怖い人なんだな」
と思われてしまっては、いざ収録をしてもっとこうしてほしいと要望があったとしてもスタッフの方が言いづらくなってしまいます。その場ではOKと言われたとしても、実は何も生まれていなかったことになり、次から呼んでもらえなくなってしまう…なんてこともあります。常に自分で自分をフォローできるよう、意識して現場に挑んでいるのです。
自分で自分に点数をつけるなら「100点でいいじゃん」
ご自身に点数をつけるなら?と伺うと、
「100点だと思っています」
とおっしゃる田中さん。その理由は、例え現状上手くいっていなかったとしても自分が精いっぱいやってきた結果がすべてであり、自分で自分を低く評価しても仕方がないという考えから来ています。この姿勢には、やはりゲームクリエイターを諦めることになった経験が大きく影響しています。
夢を叶え、せっかくレールに乗り出したのに、急に病気になってしまったことでレールからはじき出されたようだったそうです。そこから人生を見直さなければならなくなり、今まったく別の道を進んでいるので、例えば現在の自分の点数を40点とつけたところで何か変わる気はしないと田中さんは言っていました。
ゲームクリエイターとして働いていたときの勤務状況は、健康な人でも身体を壊してしまうようなものでした。元々持病があった田中さんは、「なるべくしてなったと思います。神様のお告げか何かだったのかも。」と今では考えられるようになっています。
例えば5年先、10年先の目標を持っていなかったとして、「目標がないとだめだ」なんてことはなく、目標を持ってやっていたとしても自分のようになる人間もおり、先を見すぎていても結局はなるようにしかならない。目標はもちろんあるに越したことはないですが、必ずしも全員が目標を立てなければならないわけではないし、人それぞれでいい…そんな思いから、「今の自分は100点でいい」と言えるようになりました。
いつかは“ジェットストリーム”のパーソナリティに
「芸能の世界は難易度の高い椅子取りゲーム」
今は何でもやらせてもらえることがありがたいので、まずは続けられるよう今後もやっていきたいと話す田中さんですが、それでも今後やりたいことがあります。
ナレーターとして憧れている人物は城達也さんです。城達也さんは“プラチナムボイス”と呼ばれた、ジェットストリームというラジオ番組の初代パーソナリティです。城達也さんに続いてジェットストリームのパーソナリティになることが今の目標と田中さんは語ります。
「そのためにはまず現パーソナリティの福山雅治さんを倒さなきゃいけないんですけどね…それは非常に厳しいです(笑)」
いつかジェットストリームで田中さんの声が聴ける日を夢見て…田中さんの挑戦は続きます。
ライター
インタビュアー
川越みほ
大阪府出身。府内大手テーマパークでスタッフとしての勤務経験があり、現在は関東圏を中心に声優として活動。
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メイちゃん (木曜日, 10 2月 2022 15:06)
目標に向かって頑張って下さい。
応援しています✋�